6ヶ月になった娘への手紙

君が生まれて、今日で6ヶ月になったね。おめでとう。


6ヶ月前の今日の朝、君はまだ生まれていなかった。前の晩から、母さんと父さんは病院に居た。君が生まれる一日前からずっと病院の中に居たんだよ。


病院に居た理由はね、君が生まれる前の日、母さんは丸一日、陣痛というおなかの痛みを我慢して居たんだ。それはね、君が母さんのおなかの中から出てきて、生まれるために必要だったんだ。母さんはつらそうだったけど、君に早く会いたいからすごくがんばったんだよ。父さんは母さんのそばに居ることしかできなかった。
そして、3時のおやつの時間が過ぎた頃、君は初めて母さんのおなかの中から出てきたんだ。父さんも一緒に居たんだよ。気づいていたかな?
母さんも父さんも、君が生まれてうれしくて泣いたんだよ。君もうれしくて泣いていたのかな?母さんは、君を生む前、病室から分娩台というベッドに移動したんだけど、そのときすでに泣いちゃってたんだ。もうすぐだって。すごく待ったんだって。


出てきた君は、本当におおきな声で泣いて、すごく元気だった。手をぱたぱたさせて、招き猫みたく、左右交互に動かして、かわいかったよ。大きくなった今の君は、そのしぐさをしなくなってしまったのは、君が成長して、うれしいことなんだけれど、ちょっぴり残念でもあるんだ。


一番初めに目を開けたのは、左目だったんだよ。看護師さんに身長や頭囲を計ってもらって居たときだった。母さんはまだ先生に手当てをしてもらっていたから、それは父さんが見ていたんだ。


生まれて初めて母さんの腕に抱かれて、おっぱいを吸ったのも覚えているのかな?そして、写真を撮ったんだ。初めて家族3人になった記念の。
あの時、本当にうれしかった。君は本当に望まれて生まれてきたんだよ。母さんは、「何でもっと早く着てくれなかったの?」って思ってしまうぐらい、母さんも、そして父さんも待ち望んでいたんだ。2年ぐらい、ずっとね。
うれしくて、うれしくて、あの時の気持ちはきっと父さんと母さんの宝物だと思うよ。もちろん、一番の宝物は君なんだけれどね。


1週間して君は病院を退院して、おうちにやってきたんだ。
父さんは会社にお願いして、お休みを取った。ズル休みじゃないよ。君の一番初めをちゃんと見たかったんだ。ちゃんと受け止めたかったんだ。だから育児休暇というお休みを会社にお願いしたんだ。
母さんは君の世話で精一杯だったから、父さんはご飯作ったり、買い物したり、洗濯したりして君の成長を見守っていたんだ。
でも、生まれて、いままで、はじめの1回以外は、父さんが君の爪を切っているんだよ。
あと、お風呂も父さんが結構がんばったんだよ。始めのころは、慣れなくて怖いと思うぐらいだった。もう君はお座りもできそうになっているけど、前は首がやわらかくて、本当に気をつけなきゃいけなかったんだ。
あ、母さんはもっと大変だった。君のオムツをかえたり、ぜんぜん眠れないでおっぱいやミルクを君に飲ませたり。2時間おきにずっと繰り返すんだ。日曜日も、お休みなんか無いんだ。夜も何度も起きなくちゃいけない。本当に大変だったのは母さんだったよ。


そして、大変だったけど、すごく幸せだった2ヶ月が過ぎた頃、父さんのお休みは終わった。また仕事に戻ったんだ。
君は、だんだん首がしっかりしてきたり、おしゃべりができるようになったり、どんどん成長していた。


すこしして、君の左目に病気が見つかったんだ。左目に悪いものがあるとわかったんだ。その悪いものはもしかすると命の危険があるかもしれないって。
一番初めに母さんが、見つけてくれたんだよ。父さんはちっとも病気と思わなかった。ごめんね。ぜんぜん知らなかったんだ。
かぜとか、おなか痛いとかじゃなくて、本当にめずらしい病気だったんだよ。
父さんも母さんも、そして、病院の先生も、君の左目を治そうと一生懸命にがんばったんだよ。君ももちろん、痛い注射もしたし、薬で元気が無いときも耐えてくれたし、本当にえらかった。
母さんはずっと君のそばに居てくれたんだ。君が寂しくないように。母さんもたまには外に遊びに行きたかったはずなんだけど、ずっとそばに居てくれたんだよ。
父さんは会社もあったけど、君や母さんの洗濯とか、母さんのご飯を病院に持っていったり、仕事が終わった後、毎日、病院に通ったんだ。
先生も、看護師さんも、君の病気を治そうと一生懸命努力してくれた。君の事が大好きな看護師さんが居たよね。覚えているかな?本当にたくさんかわいがってくれて、抱っこもたくさんしてもらったんだよ。君もうれしそうだったね。


だいたい3ヶ月、みんな一生懸命、がんばったし、知恵もいっぱいだしたんだけど、君の左目の中の悪いものは、しつこかった。たいていはやっつけたけど、しぶといところがあった。
父さんも、母さんも、先生も、みんな一生懸命だったんだけど、それでも君の左目のなかの悪いものはどうしてもやっつけられなかった。そして、そのしぶといところは、危ない場所にあって、ぐずぐずしていたら、君のいのちが危険だとわかったんだ。


だから、おととい、君の左目とバイバイしたんだ。
君の左目のなかの悪いものと一緒にね。たぶん、目の中から出てないからこれでおしまい。大丈夫なはずだけど、先生が今、君の左目のなかの悪いものが、どんな正体なのか、良く調べてくれているよ。
父さんと母さんがバイバイするって決めたんだ。君の意見も聞きたかったんだけど、病気のこととか、いのちが危ないこととか、理解できるほど君は大きくなかったんだ。
父さんも母さんも、本当は、君の左目とバイバイしたくはなかったんだ。けれどね、君のいのちが危ないとわかったから、残念だったけどバイバイしたんだ。でも、ごめんね。治してあげられなくて。


君と一緒に、母さんも父さんも生きていたいと思うんだ。君は本当に大切なんだ。だから生きてほしい。いまはまだ、うまくいえないけれど、生きていくって大変だけど、それでも価値があることなんだと父さんは思う。父さんもまだまだわかっていないことがたくさんあるけど、一緒に考えていこうよ。
これから君に伝えていかなくちゃいけないね。聞いてくれるとうれしいな。